ピアニストの栃原明子氏とベーシスト勝本宜男氏の公開レコーディング JAZZ LIVE。
その名も「the Vespa Project」。略してベスプロ。一体何のプロジェクトさ？
誰もがふとした疑問をもつようなタイトルである。

プロデューサー寺岸さんは、そんな人々の疑問や
イベントのアバウトさを「JAZZ だから。」と言ってのけた。
事の 始まりは演奏者&関係者による某名盤のパロディージャケットを作ったこと、
そこからライブの話に進展したこ と、すべては遊び心から始まった企画だということ、
栃原さんのトークで分かった人も多かったことだろう。

たとえ遊び心から始まったものだとしても、準備諸々柔軟性があったとしても、
演奏と録音はクオリティが高くて はならない。そんなプライドのあるライブ。
広報から準備から当日運営まで、多くの人が携わった
密度の濃い“プ ロジェクト”には違いない。表には見えにくい準備の一部を、
寺岸写真塾生目線の裏ベスプロとしてちょっとだけお伝えし ます。

実はライブ一週間前のこと。
カメラマンでありプロデューサーでもある寺岸さんは悩んでいた。
50 人分ほどの椅子をどこから調達するか？録音機械をどこに置くか？
会場設営をどうしたらよいか考えあぐね焦っていた。課題が一つ解決する と、
自分に言い聞かせるがごとくスタッフに都度報告していたのだった。

いよいよ当日。
お客様が来るまでに会場をさらに整理整頓をす るスタッフ。
荷物がどけられ、むき出しになった色あせた床にワックスを塗る姿もあった。

録音機材の入念なチェックをする。
プロジェクトリーダーの佐沼JAZZ Spot ELVINマスター
カルロス・ アンドーネこと安藤吉英さんは、一度会ったら
絶対に忘れられないだろう独特なヘアスタイル（アンドーネカッ トと名付けてよいと思う）と、
いかつくないとは言い難い風貌。しかし、この一見怖そう？な見た目とは違って、
とても気さくで人当たりのよい大変優しいお方である。素敵なギャップが魅力的。

今回の目玉の一つでもある録音機器 STUDER、NAGRAを操作する
喫茶エルガーのマスター遠藤さんは、終始寡黙だったのが印象的。
カメラのファインダー越しに、予期せず目線が合ったときはちょっとドキッとした。

お客様をお迎えする入口準備もしっかりと。
会長の大庭さん（←なんの会長か本人も誰も知らない）が名簿を作 り、
素敵な笑顔で男性陣をイチコロにするひろみさんが会計係に。

鰻の田中家の櫻井さん（←注:田中さんでは ない）からは新鮮筍の差し入れ。
その筍を使って喫茶エルガーのママが美味しい筍ごはんを作ってくださった。
石巻の珈琲工房いしかわの石川氏からはこだわりコーヒーの差し入れがあり、
会場にはなんとも香ばしい薫りが 漂った。
JAZZ とコーヒーはベストマッチで賞が授与されてもよさそうだ。

スピーカーから流れる大音量の JAZZ と贅沢な差し入れたちで、
ほどなくお客様を迎える準備が進められていった。

直前リハ。二人とも真剣。音合わせといえども、プロのこうした練習場面が見られるとは役得。
ところで、勝本さんは時にスバラトンコさんとかトンコさんとか呼ばれているようだ。
わたしが「変わったニックネームだね。」 というようなことを口にしたら、
寺岸さんが「コントラバスを逆さに読んだだけだ。」と教えてくれた。

蛇足。このリハで二人が到着する前、マイクテストをするからピアノの鍵盤をたたいてくれと、
ピアノのそばにいたわたしはアンドーネ氏からご指示を受けた。
大人ピアノをやっていたにもかかわらず、何も弾けず、
本当に鍵盤をたたくだけのお手伝いをした。
自分史に、オモシロ情けない実績がまた一つ加わることとなった。

準備作業の合間になんとなく一息つくスタッフたち。
寺岸さんに時々お前呼ばわりされ、少々気の毒な場面をみか ける
セキュリティ担当日本人 Sammy さん。音楽が止まると作業の手を止めて、
トコトコと何か別な曲をかけにい く。準備中もそんな様子を何度か見かけた。

ふと振り向いたら Sammy さんとお客様係のゆらりとした恵さんが
偶然同じようなかっこうをして立っていた。恵さんは、この後の LIVE では
終始小気味よい掛け声で JAZZY な雰囲気を演出している。

男子禁制の楽屋は女子トーク部屋を兼ねた。
そこは、なぜかゲイバー・ニューハーフバーの話題で盛り上がって いた。
その手の店では自分が女装した男性に間違われるかもしれない、
などと言っている栃原さん。かつて、女友達の彼氏に間違われた事実を持つ
わたし（←女）の方が、ずっとその恐れがあるから栃原さんは安心してよいと思う。

たわいもない話をしながらメイクが進み、
つけまつげを初めてつける明子さんが興味津々で鏡をのぞきこんでいた。
メイク 担当 ZhiYoun（ジヨン）さんの手で、栃原さんが舞台にふさわしくキレイになっていく。
ZhiYoun さんが楽しそう にメイクしている笑顔が心に残った。
ちなみに、栃原さんは多趣味＆多才の持ち主で、わたしのカメラ友達。
ベ スプロ風に略すならカメ友？

ムービー担当ジャズボーカリスト舞さんは、
絶妙なタイミングで自然にモデルに声をかけていた。流石ミュージシャン、
撮られ方のコツ を知っている。セッションではボーカルを担当。
写真を撮るのも上手な表現豊かな、雰囲気のあるアーティストだ。

ライブに来る人それぞれ。
久しぶり～、よく来たね～、ありがとう～、の声が飛び交う。
JAZZYなスタジオ に感動する人、記念撮影をする人、チケットに見入る人、
久しく会った友人と束の間の会話を楽しむ人 etc。

音が鳴り始まると、スタジオは一気に静まり返る。
スタジオに心地よく漂うピアノとベースの音色に酔いしれる。
途中からはボーカル、テナーサックス、フリューゲルホルン、
ドラムスが加わったセッションタイムに突入。
これで 3000 円（ワンドリンク・差し入れあり）は、かなりお得なライブではないかと。

楽しいあとはお片付け。
大役を務めたテープレコーダーが丁寧に片づけられ、
椅子が片づけられ、コードが巻か れ・・・、
ライブ会場だった寺岸堂がもとの写真スタジオの姿に戻っていく。